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木星と月が織りなす吉凶のコンビネーション【シャカタヨーガ・ムクティヨーガ】


"Moon Palace" Illustrated by Niji Journey


前回の記事

では、惑星の位置関係に焦点を当て、そのバリエーションと実践例を少しご紹介しました。


今回もそのテーマを引き継ぎ、惑星同士のポジショニングによって生じるヨーガ(惑星同士の特別なコンビネーション)について解説したいと思います。


惑星同士の位置関係が成立条件となるヨーガのうち、最も有名なのはやはりガジャケーサリ・ヨーガでしょう。

詳細は過去記事を参照していただければと思いますが、ガジャケーサリ・ヨーガの成立条件とは

「木星と月が互いにケンドラ(1-7, 4-10)の配置にある」ことでした。

つまり、これまで説明してきた惑星同士の位置関係が鍵となるヨーガです。


さて、ガジャケーサリ・ヨーガはケマドルマ・ヨーガなどと並んでインド占星術初心者にも比較的よく知られているヨーガですが、このガジャケーサリ・ヨーガには「裏の顔」があるのをご存じでしょうか?

それが以下のヨーガです。


 

Sakata Yoga

 

【定義】

木星と月が互いにドゥシュタナ・ハウス(6-8, 2-12)の配置にある。

 

【意味】

キャリアが安定しない。

 

木星と月が互いにネガティブな配置である6-8, 2-12の関係にある時に成立するヨーガで、まさにガジャケーサリ・ヨーガの逆バージョンとも言えるコンビネーションと言えるでしょう。

例えば以下のホロスコープのような場合です。



木星から数えて月は6室。月から数えて木星は8室。6-8の関係になっています。

シャカタとは「牛車」をあらわすサンスクリット語で、ガタゴトと上下を繰り返し、路面をのろのろ歩む様子から、キャリアの遅延や不安定さを象徴するコンビネーションとされています。


カテゴリとしては、ケマドルマ・ヨーガのようにネガティブな意味合いの強い、悪性のヨーガのひとつだと言えるでしょう。


しかし、興味深いのはここから。このシャカタ・ヨーガはある条件を満たすとまた別のヨーガに変化します。それが以下のヨーガです。


 

Muktih Yoga

【定義】

木星と月が互いにドゥシュタナ・ハウス(6-8, 2-12)の配置にあり、なおかつ木星が定座以上の品位にある。

【意味】

大変な成功を収める。木星ー月期に結果を出す。

 

木星と月がドゥシュタナの配置でも、木星が定座以上※1の強さにある場合、シャカタ・ヨーガはムクティ・ヨーガという吉兆のヨーガに変貌します。


例えば、以下のホロスコープのような場合。




左側のD1において、木星と月は6-8の関係にあり、木星は魚座在住なので定座の強さにあります。ムクティ・ヨーガの成立です。


アディ・ヨーガやヴァスマティ・ヨーガなど、インド占星術には吉兆を示すヨーガはたくさんありますが、その中でも僕が個人的に「使える」と思っているのが、このムクティ・ヨーガです。

木星ー月期と成功のタイミングも明示されているのが特徴ですね。月ー木星期ではないというところがポイントなのかもしれません。


上記のJさんはアーティストなのですが、この方の出した作品が世間に認知され、大成功を収めたのが1995年12月。大きな飛躍をもたらしました。


ヴィムショッタリ・ダシャーで見ると1995年12月前後はちょうどムクティ・ヨーガを形成している木星ー月期です。


マハーダシャー※2の木星はD1において10室(仕事)の支配星である土星のアスペクトを受けて11室(達成・利得)に在住し、D9においても10室の支配星である火星にアスペクトし、11室に在住しています。

アンタルダシャー※3の月はD1において10室を支配する土星のアスペクトを受け、D9において10室に在住。



JさんのD10(仕事運)チャートも見てみましょう。

マハーダシャーの木星は10室を支配して11室にアスペクト。アンタルダシャーの月は11室を支配する土星のアスペクトを受けています。


このように、D1、D9、D10において木星と月は繰り返し10室と11室に絡んでいることがよくわかります。

僕がインド占星術を学ぶ時に心がけていること」という記事で僕は「ヨーガを使わなくてもホロスコープは理解できる」と書きましたが、このように、ムクティ・ヨーガができているからといってすぐに結論を出さず、しっかり基本通りにホロスコープを確認することが大事です。


また、ここには書いていませんが、当然ジェイミニ占星術※4でもクロスチェックをしています。




最後に、ムクティ・ヨーガの例をもうひとつご紹介しましょう。

炎の画家、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホです。


木星から数えて月は12室。月から数えて木星は2室。お互いに2-12(ドゥシュタナ)の配置ですが、木星はムーラトリコーナ※5なので定座以上の強さです。


しかし、ご存じのようにゴッホの絵は生前はほとんど売れず、貧困や精神疾患に苦しみ、最後は拳銃自殺を図りました。



ムクティ・ヨーガが結果を出す木星期は69歳~85歳という晩年期。

しかしながら、ゴッホは1890年7月、37歳という若さで死去してしまったため、生涯木星期の恩恵に浴することはありませんでした。



『星月夜』フィンセント・ファン・ゴッホ(1889年)


もし、ゴッホが自殺を図らずに70歳まで生きていたら・・・と思わずにはいられませんが、それはありえない仮定なのでしょう。

サンスクリット語で「時間」を意味する「Kalah」という言葉は、ヤマ、すなわち死の神の別名でもあります。

神の采配は、まさに時間軸を司るダシャーにこそ現れるということなのかもしれません。



※1 定座、ムーラトリコーナ、高揚(最高星位)。

※2 ダシャーにおける、もっとも大きな区分(レベル1)。

※3 ダシャーにおける、マハーダシャーに次ぐ区分(レベル2)。

※4 聖仙ジェイミニによって創始されたとされるインド占星術の体系。パラシャラ方式とは異なるシステムを持つ。

※5 惑星の品位のひとつ。木星は射手座の0-10°でムーラトリコーナとなる。

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